先端増強ラマン散乱顕微鏡 TERSsense

ナノフォトンから待望のTERS顕微鏡がデビューします。回折限界を超えた空間分解能と増強効果により、前人未到のナノラマンイメージングの世界を切り開きます。

10nmの空間分解能で見るラマンイメージ

CNTおよびグラフェンのTERSイメージングのデータを示します。CNTのデータでは、半値全幅より14nmの空間分解能でイメージングできていることが分かります。グラフェンのDバンド強度イメージでは、アームチェアエッジの分布を明瞭に観察できました。このように、回折限界を超えて10nmオーダーの空間分解能でラマンイメージングができる点が、ナノフォトン社製TERSsenseの最大の魅力です。

CNTのTERSイメージと空間分解能評価

グラフェンのTERSイメージ

性能保証されたプローブを備えた本物のTERS顕微鏡

ナノフォトンが開発した先端増強ラマン散乱顕微鏡TERSsenseは、大阪大学河田研究室・フォトニクスセンターの研究成果の技術移転によるものです。河田研究室が持つプローブ製作技術を活用することで、再現性と増強効果を保証している点が最大の特長です。プローブは出荷前に全数検査され、性能保証付きでお客様へ提供されます。プローブと金属コート基板でサンプルを挟む(ギャップモード)必要はなく、プローブだけで高い増強効果と再現性を発揮します。また、透過型の装置構成を採用しているため、NA1.4という高開口数の対物レンズが使用でき、極めて感度の高い測定が可能です。

先端増強ラマン散乱(TERS)顕微鏡とは

先鋭な金属ナノ探針(プローブ)を用い、その先端のナノ構造によりラマン散乱を局所的に増強することで、空間分解能を飛躍的に高めたラマン顕微鏡です。通常のレーザーラマン顕微鏡と原子間力顕微鏡(AFM : atomic force microscope)を組み合わせた装置で、AFM用カンチレバー探針に金属薄膜をコートしたプローブが用いられています。

開発ストーリー

ガリレオ・ガリレイは天動説を否定して教皇庁に幽閉され、アイザック・ニュートンは太陽が1億5千万km離れた地球の動きを支配するという万有引力を説きました。月が潮の満引きを制御するなんて信じられなくて当然です。しかし常識や権威を否定したときに初めて科学は生まれます。

光学の教科書で教えられる基礎に「回折」があります。最高性能の対物レンズを使ってみても光は回折し、その波長(nm)よりも小さいものは見えません。1992年の10月、私はこの常識を否定する原理を思いつきました。

波長よりも小さな金属針の針先を光に当てると、光の波長よりも小さな光スポットが形成され、それを観察試料の近くで走査するとナノの光学顕微鏡ができるかもしれない。そう気づいた私は研究室にあったまち針の先端を手で研磨し、レーザー光を全反射させたプリズム表面に先鋭化した針を近づけてみました。見事にナノの光スポットが光り、そのときに超高分解能の顕微鏡が完成したのです。早速特許を取得し、翌年の国際会議で発表しました。当時は注目を浴びることはありませんでした。

1999年に、ラマン散乱顕微鏡としての応用を学会発表しました。それから数年して、TERS顕微鏡ブームが始まりました。その後私たちは、非線形分光やナノ圧力印加などのさまざまな新しい原理と、ナノ材料の観察への応用研究を発表しています。

TERSの操作にはとても高い技術が必要です。再現性も高くはありませんでした。それではせっかくのナノ科学、ナノ材料、ナノ研究の研究者や技術者、ユーザーの手にTERS顕微鏡が届きません。私たちは一般のユーザーが使える装置の開発をここ数年進めてまいりました。そして今回、ついに技術移転することにいたしました。最初の発表から実に20年が経ちました。革命的技術とはそんなものなんだろうと思います。コペルニクスからガリレオまでは50年以上かかったのです。

大阪大学名誉教授
河田 聡